学園マーメイド
「それって、バンビだよ」
寮へ帰って風呂に入り、ご飯を食べたのに関わらず、光は私の部屋に来て片手にポッキーを持ちながら驚いた声をあげた。
「バンビ?」
「そお、バンビ」
英語で鹿、でいいんだよね。
手に持ったポッキーをかじると混乱している私の顔を見て笑った。
「ほら、蒼乃にもマーメイドって言う名称があるじゃない?それと同じだよ」
自分がいつマーメイドと言う名称をもらったのかさえも不明だ。
だいたいさっきから思うけど、水泳はマーメイドなんて可愛い競技じゃない。
ファンタジーの世界に出てくる人間の形をした魚ぐらいのイメージで十分だ。
ますます眉を寄せ、マグカップに注いだ麦茶を飲んだ。
「うちらと同い年で、陸上部のルーキー君。しかも実力はかなりで、陸上競技全てこなすし、長距離と短距離では右に出るものいないって話」
「…よく知ってるよね」
呆れたように言うと得意そうにポッキーを振った。
「顔も性格も悪くないから皆狙ってんの。蒼乃が知らなさすぎるんだよ」
まあ私は先輩一筋だけどね、と付け加えると私の手からマグカップを奪って飲んだ。
そんな期待のルーキーがなんだって自分のところにくるんだ。
しかもこちらは名前さえも知らなかったし、いきなり話しかけられて部活を見に行っていいか、だ。
確かに不審な感じがする。
それが私の覚えた違和感の最初だった。