学園マーメイド
多分原因は離婚だけじゃない。
原因は他にも……、私や兄の事もこの人の心を縛り付けていたんだと思う。
苦しんで悩んで、もがいてもがいて、すがりついたのがバスケだったんだ。
この人は私と少し似ている。
表情に苦い顔を浮かべながら話す雪兎にそんな事を思った。
「そんな時に、ここのバスケのコーチやっている人が仕事でこっち来てたみたいでさ。通りかかったそのコーチに“その才能をこの学校で爆発させないか”って言われたのがきっかけでここに来たって訳。これが17の時」
んで、18、19と此処の学園でお世話になっている、と付け加えると満足そうに息を吐いた。
今まで雪兎の来歴を聞いたことがなかったが、彼も彼なりに苦しんでここまできていたのだと、改めて分かった。
無性に胸の奥が痛々しくぎゅっと押さえつけられた気がした。
それぞれ苦しい思いをしている人がいる。
自分だけじゃない、陸嵩も雪兎も、もしかしたら梅沢もそうなのかもしれない。
そう思うと頑張れる気がした。
「……俺、先輩に会えて良かったです。この学園までくるの辛かっただろうけど、来てもらって良かった。先輩から色々学べることあったし、感謝だってたくさん」
ふんわりと優しい声を出した陸嵩に、雪兎は目を丸くした。
彼の持つ、独特の雰囲気だ。
これが私と雪兎が思う“兄に似ている”ところ。
真っ黒な瞳の奥にある優しい色。声に出すと魔法のように心に染込む言葉。
唐突に出るこの雰囲気に、私は何度助けられたんだろう。
「だから、これからよろしくお願いしますね。ラビ先輩」
にっこりと笑いかける顔に、雪兎は丸くした目を細めて笑った。
少しだけ彼の中に裕利と言う影を重ねながら。
「そうだな」
短い言葉だったけどその中にはきっと、たくさんの思いが詰まっているんだろうな。
そう思って顔を緩めた。