学園マーメイド
『言いたいことあるなら、言えよ気持ち悪い』
『……幼稚』
『はあ?』
『なんとも思わないほうが楽。君らみたいに感情を出して、誰かに向けるなんて面倒。そんな事してるなら自分の事に世話を焼いていたほうがまし。他人に目を向けるなんて時間の無駄』
ゆっくりとした口調であったが、それは確かに男子達に聞こえた。
そして梅沢にも。
男子達は蒼乃の言葉に凍りつき、無言のまま顔を見合わせると顔を歪めて走り出した。
『根暗女!』
と捨て台詞のようなものを残して。
残された蒼乃と梅沢。痛い沈黙が続いたが、耐えかねた梅沢が口を開く。
『あ、あの……ありがとう』
『何もしてないよ』
『う、うん。ごめん』
『…………』
『…………』
『あ』
『え?』
抑揚のない蒼乃の声に梅沢はびくりと肩を揺らした。
『幅跳び』
梅沢は主語がなく分かりづらい人だと思ったが、それが自分の得意としている競技だと分かった。
『は、幅跳びがどうしたの?』
怯えたように聞くと、表情がなかった彼女の顔に小さく笑みが垣間見えた。
『幅跳び。プールサイドから見えた。……何かに向かって頑張れるのっていいよね。それがいつか誇りになれたらもっといい』
言いたい事を言い終わったのか、ゴミ箱を持ち上げて歩き始めてしまった。
もう彼女の顔には笑顔はなくいつもの無表情が残っている。
次の日から、何故か梅沢に対する虐めがぱたりと止んだ。
そしてひそかに“ブリザード男はカッコいい”と言うブームが到来していたのだった。