学園マーメイド
「……それがあたしがヒーローだっていう出来事?」
「う、うん」
「いや、なんて言うかそれってさ」
苦笑いの雪兎と陸嵩、そして呆然とする私。
「ただ単に水泳にしか興味のない女の発言だろ」
「……うーん、言い方がきついけど俺もそれだと思う」
二人の発言に間違いないだろう。
まずその話を聞いて、そんな事を言ったような気もする程度には薄っすらと記憶が蘇ってきたが。
今聞くと確かに酷い発言だ。
それを言われて傷つかなかった梅沢にもすごいと思う。
「でも、僕にとってそう言う言葉を掛けてくれる人いなかったし。……ホント、僕が勝手に思ってるだけだけど、それで救われたのは確かだし」
ふわりと、今まで見たこともない笑顔を見せた。
そんな表情をさせる出来事を私自身が作っていたのだと思うと不思議な気分だ。
「俺も詳しく聞いたことなかったけど、そんな事があったんだね」
「うん、吃驚した」
陸嵩の問いに頷く。
「あの、本当に僕の勝手なんだけど……、でもやっぱり僕がこの学園にこようと思ったのも園田さんのお陰だし……。その……ありがとう!」
ぷるぷると肩を震わせ、顔を真っ赤にして頭を下げられた。
とっさに“こちらこそ、なんかごめんなさい”と言って頭を下げた。
それを見て残りの二人が笑い声をあげると、それに便乗して私と梅沢も笑い出す。
人間はどこかで繋がっているんだと感じた。
高校に入ってからの私は中学の私よりも、自分を好きになれている気がした。
変われたのだ、人の力で。
それは今はもういない水泳部部員の人や、友達になってくれた光。
弱さを見せても受け止めてくれた陸嵩や、雪兎。
そして私をヒーローと呼んでくれた梅沢。
感情が邪魔だとは今は思わない。たまに面倒くさくなったりするけど、それでもその気持ちさえも大事なんだと思える。
こうして笑い合えるのも、この感情のお陰なのだから。
繋がっている、私達はいま、こうして感情で繋がっている。
「……ムカつく、園田蒼乃」
そんな私に静かに吹き荒れた嵐は、耳に届かなかった。