学園マーメイド


彼女達にはそれが、とても、とても胡散臭く聞こえたのだろう(そりゃそうだ)。
ざわざわと騒ぎ出す。
部室に目をやると、光が口を押さえて此方を見ている。
険しい顔つきなのが此処からでも分かる。



「あーあ、最悪」
「本当だよ。光がぜーんぶ上手く行くって言ってたから話に乗ったのに」



部員がそう言うと、それに賛同して何人かがそうだよ、と同意をした。
その言葉が何を意味するのか、分かるのに時間は掛からなかった。
急速に心臓の音がゆっくりとそしてしっかりと耳に届く。
どくり、どくり、音が耳に響く。


『光がぜーんぶ上手く行くって言ってたから話に乗ったのに』


それはどう言う意味だろう、なんて考えるほど頭の回転が悪いわけじゃない。
嘘だよね、と震える声をあげるほどこの状況を理解できないわけじゃない。
瞳を閉じて、深呼吸。
再び瞳を開けて目の前にいる、人物の顔を見つめた。


「光」


名前を呼ぶと、彼女の肩が一瞬震えて下に落ちていた目線が上へと上がってくる。
その瞳が私を見ることはない。
見ることが出来ない、その意味を知っている。否、知ってしまった。
静かに脈を打つ心臓付近が痛み出したのに気付かないふりをした。


「光だったんだ。今までの事」


責める言い方ではない、だたその事実をかみ締めるようにして言う。
ずきり、と痛みが倍増した(重たい、そして痛い)。
周りの人間は一切目に入らない。だた俯いている光を見つめる。
何を言っていいのか分からなかった。なんだろうか、このモヤモヤとした居た堪れない気持ち。
逃げ出したいのに、逃げてはいけないんだと思う気持ち。
雪兎に兄の事を言われた時とは違う。
あの時は逃げたい一心だった。逃げるしか選択方法はなかった。
でも今回は違う。
逃げては、いけない。


「……んたが……じゃない」

< 132 / 282 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop