学園マーメイド

ぽたり、ぽたり。
髪から水が落ちてはまるでスローモーションの様に床に落ちていく(そう見えるだけ)。
水から上がった後、水泳部部室の片隅で膝を抱えて座り込んでいた。
どれくらいの時間が経ったのか分からない。
ただ胸の奥底が何かに締め付けられるように痛くて、苦しくて一歩も動けなくさせている。
体も冷えてきているが生憎着替えを持ってきていない。
バスタオルを羽織っているが、それも濡れて冷たくなっている。


こんなに弱くなかったはず。
今までだったら跳ね除けている状況なはず。
……違う、弱くなったんじゃない。
感情が私を弱くしたなんて言うのは詭弁だ。
私は自分の意思によって、“悲しい、苦しい”と感じている。
進歩していい事のはずなのに、こんなに苦しくなるなら知らないほうが良かったと思う自分もいた。


「……へ、くしゅん」


ああ、風邪をひいたら水に入ることさえ出来なくなる。
もういいじゃないか。
しょうがない、見抜くことの出来なかった自分の甘さと、それを知ったときに受け止められるほどの心の器量がなかったことがいけないのだ。
膝に沈めていた顔をあげ、ゆっくりと立ち上がる。
少しふらり、と足元が揺れたがすぐに安定を取り戻し歩き出した。

ぽたり、ぽたり。
水が床に滴る。
ぺたり、ぺたり。
陽気な音が床を歩く。
もう一度泳いでから帰ろうか、そう思ってプールへのドアを開ける。
塩素の匂いが鼻いっぱいに飛び込んでくる。
やっぱり落ち着くのだ。


「―――蒼乃?」


その声に吸い込んだ匂いを全部吐き出してしまった。
同時に泣きそうになる。
真っ暗なプールに月明かりが照らし、その明かりに照らされた茶髪が揺れた。


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