学園マーメイド

「蒼乃!良かった、帰ってこないから心配してたんだっ。もう10時だよ?」


陸嵩はプールの脇をゆっくりと歩いてきた。
どうして、どうして、どうしてなんだろう。
彼の行動一つ一つがこんなにも心に染みてきて、固まった決心さえも簡単に解いてしまう。


「もう俺すっごい心配し――――てっ!?」


じんわりと歪んできた視界に陸嵩が斜めになっていく。
どうやら陸嵩の足がプールのタイルに滑り、そのままプールの中へと落下していくようだ。
激しい音を立てて水に落ちる。
なにをやっているんだろうか、漫画に描いたような状況に口元が緩む。


「陸嵩、大丈夫?」


ごぽ、ごぽぽ。
問いかけると気泡が水の表面に浮かんでくる。
だが一向に陸嵩が姿を表すことがない。

――――まさか!

一瞬にして状況を理解した私はなんの躊躇いもなくプールへ飛び込んだ。
冷たい体に水の温度は更に冷たく感じる。
ゴーグルをつけてない所為で周りが良く見えないが、茶色の髪の毛がふわふわと揺れているのははっきりと分かった。
私は腕を伸ばし、彼の両腕を掴んで上へと泳ぎだす。
ジャバっ!


「――――っゲェホ、うぇ……ごほ、げほ……」


上へ上がったと同時に陸嵩が水を吐き出す。
良かった、これで意識を失うことはない。
ほっと、息を吐き出すと陸嵩がぐったりと身を委ねてくる。


「平気?」
「……ごめっ……、水……だめ……っ」


荒い息を吐きながら涙目訴える。


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