学園マーメイド

帰ってから陸嵩は何も聞かなかった。
風邪引くからと言って、すぐに着替えさせられ暖かいお茶を手渡されそれを飲んだあとすぐ、ベッドへと入らされた。
その間陸嵩はずっと、ずっと、私の傍から離れなかった(着替えはさすがにいなかったが)。
暖かい空間の中で優しい眼差しを与え続けてくれた。
だからその日は静かに眠れたんだと思う。





「……へっきゅしゅ!」



お昼を食べ終わり、午後の授業がないため少しだけ中庭を散歩しようか、と廊下で話していた矢先だった。
盛大な陸嵩のくしゃみが会話を遮ったのだ。



「風邪?」
「んにゅ……、どうだろ?水に落ちた日から結構日が経ってんのになあ」
「後から来る風邪かな」



あれから1週間。
何が変わったと言えば、何も分からない。
嫌がらせは健在で、当初からは大分数は減ったものの、それを見るたび心が痛くなった。
その裏にある物を見てしまったから、前のように割り切ることができなくなったと言えばいいのだろう。
気丈に振舞ってみても、心では光の影がちらついて悲しくて苦しくなる。
そんな心情を知ってか知らずか、彼は太陽に似た笑顔で笑いかけてくる。それを見ると、少しだけ、……ほんの少しだけ気持ちが軽くなる気がするのだ。



「風邪薬飲んでおいたら?」
「ん、そうする。俺すぐ喉にくるんだよね」
「ああ、声がガラガラになるタイプだ」
「そうそう」




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