学園マーメイド

ゆったりとした時間が流れていく。
二人で中庭へ向かう途中で会話が途切れることはなく、その会話どれもが他愛なくどうでもいいことばかり。
それがどうしようもなく心地よく、安心できる。
だから奪われたくない、失いたくない。
そう思うことがいけない事だったなら、時間を巻き戻して感情を封印するのに。




「――――……あんたが悪いんだからね」




そう耳に聞こえ時には、遅かった。
背中に生暖かい人間の体温を感じ、重心が前に傾いたのを感じたとき、瞳に移ったのは階段だった。
いや階段なのは当たり前だ、今まさに私と陸嵩は階段を降りようと足を一歩踏み出していたのだから。
だがどうだろうか、一歩踏み出した足は踏むはずだった一段目を踏む事無く、宙を虚しくかいている。
落ちるのだ、と背中を押された瞬間に思った。
思考回路は正常に動いている。
動いていたとしてもこの状況をどうにしかすると言う対策は出てこない。
そう、遅かったのだ。
まあ、大丈夫だろう。この高さから落ちても死に至ることはない。
打撲は免れないだろうが。
なんて考えて、ぎゅっと瞳を閉じると同時に陸嵩の叫び声が聞こえた。



「蒼乃!!」



その声と、体に触れた熱で彼が何をしようとしているのか瞬時に理解できた。



「だ、いじょうぶだから!」



と叫び返してみたが彼の応答はなかった。
体に鈍い衝撃が走る。頭を守るように両腕を頭部に包んで、階段を転がる。
一段一段落ちていく感覚が体中を伝っていく。
ダンダンダン、ダン!
最後の一段を転がったのだろう、体が止まる。
しん、とした空間が広がって大きく深呼吸。静かに瞳を開けると、階段が見える。



「……落ちた」



ふ、と言葉が出る。


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