学園マーメイド



「……落ちた、じゃないよ。大丈夫?」



耳のすぐ傍で陸嵩の声が聞こえた。
はっ、と思って体を起こすと私を包むようにして陸嵩が床に転がっている。
頭を包んでいた腕は私の腕ではなく、陸嵩の腕だったのだ。
痛みが鈍かったのも彼の体がクッション代わりになっていたからだ。
心臓が急かすように脈を打った。
体を起こし、横たわっている陸嵩の頭に手を置く。



「打った?打ったよね、打ったでしょう?」



頭の中が混乱していて、自分が何を言っているのかさえ理解できない。
そんな私を陸嵩が笑う。



「打ったって言いすぎ。……確かに体打ち付けたけど、そんな痛みないよ」



彼は自分の顔の前でひらひらと手を振って見せた。



「ただ、階段で回ったから視界がぐるぐるしてる」



そんな陸嵩の言葉を聞いても心臓はドクドクとうるさく鳴る。
陸嵩の頭においた自分の手が微かに震えているのに気付いたのはそれからだった。
打ち所が悪くて、なんて考えたら申し訳なくて、居た堪れない。
平気なはずがない。そんなに急な階段でないからといってもある程度高さはあるのだから。
しかも自分の不注意ではなく私を助けるために。
こんな事はあってはならない。あってはならいのだ。
彼がここまでして守ってもらうほど、自分に価値はない。



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