学園マーメイド


「……あのさ、蒼乃。平気だから、そんな顔しないでよ」



どんな顔をしてるのだろうか、鏡がないから分からない。
ただ陸嵩の安否を祈るばかりだ。
彼は小さく息を漏らし、体を起こすとニッと笑って見せた。



「つか、蒼乃を守れたんだからここは男として褒めてよね」



俺もちょっと誇らしいし、そう言って無邪気な声をあげる。
私を傷つけないための言葉と言う事は分かっていた。
遠慮をさせないため、自分を責めないため、いつもいつも。
陸嵩は私を壊れ物のように扱って、包み込んでくれてる。
それにどれだけ救われてきたのか、きっとこの人は知らない。
……ほら、こんなにも心臓あたりが暖かくなる。



「……ありがとう、庇ってくれて」
「ん。どういたしまして」



どうして階段から落ちたのか、その原因を口にすると気まずい。
その話題が出ないために、早々に口を開いた。



「陸嵩、一応保健室は行ってよ」
「そうだね。蒼乃もだよ?」



陸嵩の肩を抱いて、ゆっくりと立つのを手伝う。



「あたしは、」
「平気、とか言ったら怒るからな」



“平気”と言いかけてその言葉をぐっと飲み込んだ。
真剣な声色と表情に何も言えなくなってしまう。
実際平気なのだ。陸嵩が体を守ってくれたお陰で、落ちたときは多少衝撃はあったがそんなに酷く痛む場所はない。
だがここで大丈夫だと言っても陸嵩は無理にでも保健室に連れて行くのだろう。


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