学園マーメイド

私は軽い溜息をついて降参したように言う。



「分かった。とりあえず、一旦コーチの所行ってメニュー聞いてからね」



それに満足したのか、陸嵩が何度か頷く。
そして私の肩から体を離すと笑って見せた。



「じゃあ、俺はこのまま保健室行くから。またな」



ひらりと手を振ってゆっくり階段を下りていく陸嵩の背中を眺めて、あの時押された背中の感触を思い出してぞっとした。
そしてその感触を振り払うように首を大きく振る。
怪我がなかったから良かったものの、陸嵩にまで被害を及ぼすようになった。
綺麗に聞こえるのかもしれないが、私以外の人間にまで危害を加えるのは本当にやめて欲しい。
これは私の問題であって、他の人は関係ない。
言ってしまえば部外者なのだから。



「…………」



先ほど落ちた階段を一歩つづ上っていった。




コーチからメニューを聞いて、陸嵩の言いつけ通り保健室へと向かった。
行かなかったら陸嵩に盛大なお説教をされるに違いない。
とりあえずそれは避けたい。
保健室のプレートが見え始め、ちょっと深呼吸をする。
何もなければいい、何かあったらまた水泳禁止令を貰う。
そうすればまた水の中にいれない日が出来る。
……陸嵩の説教よりそっちのほうがかなり辛い(陸嵩に失礼だが)。
保健室のドアの前に立って、もう一回深呼吸。
意気込んで扉に手をかけようとした時だった。



『……ちょっと、待ってください』



弱弱しい、でもはっきりと陸嵩の声が聞こえてきた。
私は扉を開けるタイミングを失ってしまった。




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