学園マーメイド

その日、私は寮に帰らなかった。
寮長に長期外泊届けを出して、向かったのは雪兎の家だった。
電話をすると、雪兎は何も聞かず優しい声で了承してくれたのだ。
一人暮らしをしている雪兎の家は学校から2駅のところだった。時間にすると20分の距離にある。



「いらっしゃい。飯食ったか?」



優しい笑みで迎えたくれた雪兎を見れず下を向いたまま。
雪兎に連絡してからすぐに電源をオフにした携帯がポケットの中でやけに重たく感じる。



「……まだ」
「俺も。焼そばでいい?」
「うん」



理由を言っても、理由を言わなくても雪兎はここに置いてくれるのだと分かっていても口に出すことが出来なかった。
俯いたままの私を気遣うように雪兎の手が頭の上に乗る。



「ほら、座んな」



通してくれた部屋は一人暮らしをするのには丁度いい広さで(単位で表すのが難しい)、バスケットボールやスポーツ雑誌などが転がっていてバスケットが好きなのだと改めて実感した。
雪兎が出してくれたクッションに腰を下ろし、荷物も傍らに置く。
机の上に並べられた数学の教科書などを手早く片付けだす雪兎をぼうっと眺める。
勉強するんだ、なんて言ったら苦笑いするだろうか、怒るだろうか。
なんて考えているうちに片付いた机の上に焼そばが並べられる(麦茶も出てきた)。



「雪ちゃん料理できたんだ」
「まあな。離婚してから母親が夜遅いときは俺が飯当番だったから」



ちょっと自慢げに置かれた焼そばは湯気といい匂いを出して、私の食欲をそそった。



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