学園マーメイド

雪兎も机の前に座ると、一緒に手を合掌をした。



「いただきます」



雪兎の料理は美味しかった(予想外だ)。
何故か口の中に入って喉元を通り、腹に落ちた時、胸の奥が暖かくなって、少し目頭が熱くなってしまった。
多分人間身のある暖かさが胸の蟠りを刺激したのだと思う。
あんなに我を忘れて泳いだ所為か、体が重たく、少しぼうっとしてしまう。
食の手が止まっているのを雪兎に指摘され、慌てて口に焼そばを入れると言う事を何度も繰り返してしまった。
何を会話したのかも、ぼんやりと薄く覚えていない。
頭の中はモノクロの映像とはっきりとした声でいっぱいになっていた。



――――『ええ、“骨折”の部類での症状は軽いわ。でもね、怪我としては重いのよ』
――――『……今回の大会は……応援に……っく……うっ』



ごめん、ごめん陸嵩。
耳に残る彼の声、目の前に広がる冷たい保健室の壁。
たった一枚の薄い壁が、とてもつもなく重たく広い壁に見えてしまう。
扉を開けることができない。
陸嵩はいつも私の前にある壁を乗り越えて、優しく許すように包み込んでくれたのに。
私はそれすらできない。彼を守ることも、彼の肩を抱くこともできない。
そんな事、赦されない。



「―――乃……、―――蒼」



足にヒビが入ったのは、私の背中を押した人間の所為もあるだろうが、その前に陸嵩が私と一緒にいなかったらこんな事態に巻き込まれなくてすんだ。
一緒にさえ、いなければ。




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