学園マーメイド
背中を向けているから顔が見えないはずなのに、この人は見透かしていた。
頬に伝う暖かい涙の事を。
涙腺から零れ落ちるしょっぱい粒は、幾度も幾度も頬を流れて、顎を伝い下に落ちた。
一粒はタオルを濡らし、一粒は床を濡らした。
「分からな、い」
喉元からでた言葉は今の心境そのもので。
自分の事なのに自分ではないみたいに感じられる。
どうしたらいいのか、なにをしたらいいのか、自分で対処できない。
酷く苦しくて、息を吸うことさえ疎ましくて。
ねえ、助けてよ雪ちゃん。
分からないんだ、苦しくて苦しくて苦しくて。
その気持ちから離れようとしても、離れらない。
逃げようとしてもがいても、後から後から私の逃げるスピードより遥かに早く追い越していく。
分からないんだ。
「聞くけどさ、どうして寮に長期外泊届けを出してまで俺のとこに来んだ?」
そんなの、簡単だ。
「……陸嵩がこれ以上傷つくのが嫌だったから」
寮に帰れば、きっと彼は私の所為じゃないと笑い、私を赦してくれる。
でもそれでまた私を庇って怪我をしたら?
もう一度起こるなんて誰も予想できないし、あのままだったらまた何かされるのは目に見えて分かった。
私を守る事で陸嵩が苦しんでいる姿を見たくない。
事実、私を庇い“大丈夫だ”と笑顔を見せていたのにも関わらず、陸嵩は足に怪我を負い、大会を欠場になる。
私を守られなければ、こんなことにはならなかった。巻き込んだのは自分だ。
これ以上一緒にいたら同じことを繰り返す。
だから、寮を出て雪兎の家に来たんだよ。
雪兎の足音が近づいてきて真後ろで止まった。