学園マーメイド


「……遅いよ、……っも、遅いよ」



そう、今更気づいたって遅い。
陸嵩に何も言わずに寮を出て、携帯の電源を落とし連絡を一切拒否して。
怖かったのだ、彼に赦されることも、彼がこれ以上傷つくことも。
陸嵩が好きだから、余計に怖かったんだ。自分が好意を寄せる人間が傷つくことがこんなにも苦しくて、こんなにも痛いものなんて知らなかった。
もっと前に気づいたらこんな苦しい思いにはならなかったのかな。


雪兎がゆっくりと腰を折り、目線と同じ高さまでしゃがんだ。
私の頭を優しく撫でると、強い力で私の頭を自分の胸板に押し付けた。
水泳をやっている肩幅の広い肩を更に広い肩で、強くもなく弱くもない力で抱きしめてくれる。



「バンビが好きか?」
「……好き。陸嵩が……、好き」



ごめん、ごめんね陸嵩。
何度も言ってくれた陸嵩の好きが、今ようやくどれほどの気持ちなのか分かった。
好きだから陸嵩の笑顔が嬉しくて、好きだから陸嵩の涙が悲しいんだ。
声にする事ができないのに、湧き上がるこの思い。
伝えたら君はどんな顔をするんだろうか、満面の笑みで笑ってくれるんだろうか。
そうしたら私も嬉しくなって同じくらいの笑顔を返すんだろうな。
でも、この騒動が納まるまで陸嵩の瞳を真正面から見ることはできない。
自分ならまだしも陸嵩にまで害が及んだり、傷つけたりさせるのは嫌だ。
大切な人が、大好きな人が苦しんでいる所なんてみたくない。


――――だから、寮には帰らない。




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