学園マーメイド
二度あることは三度ある、みたいに悪いことが重なると言った人間の首を絞めてやりたい。
「特別講師の川上蒼明(かわかみそうめい)さんだ」
時は過ぎ、陸嵩が出場する筈だった本命の大会も終わり11月を迎えた最中、水泳部の顧問とコーチがお揃いで向かえたのは特別講師だった。
そして私はこの人物を知っている。
「有名だから知ってるな。オリンピックにも出場した選手だったが、引退されて今はアメリカでコーチとして活躍している」
心なしかコーチの声が高く、歓喜あまっているように見える。
だがそれとは逆に私の心はどんよりと沈んでいく。
私がじっとりとした目でコーチの瞳を見ると、コーチも少し自重しようとしたのか、咳払いをして特別講師を呼んだ。
「えー、じゃあ川上さん、よろしくお願いします」
川上蒼明と呼ばれた男は二人に小さくお辞儀して、私に向き直った。
「初めまして、川上蒼明です。今日から来春までかな、蒼乃ちゃんの講師としてサポートするんでよろしく」
気安く名前を呼ばないで欲しい、と喉元まで出たがぐっと堪える。
そしてすっと手を差し出されて、もうその手を握るしかできない状況になっている。
気付かれないように小さく溜息をついて、大きく骨ばった手を握る。
やんわりと握られ、すぐに手を離す。
ここにコーチと顧問がいなければ、今すぐ走り去って手を洗ってやるのに。
「川上さん、今日からお願いしますね」
二人はが頭を下げると、川上も頭を下げる。
終始顔を緩めていた二人がプールから出て行くと、急いでキャップとゴーグルを付けて水の中に飛び込んだ。
話しかけられて会話になるなんて事、まっぴらご免だ。