学園マーメイド

だがやはり彼の指導はコーチや顧問よりも的確で何をどうしたらしいのか、詳しく分析や解析をしてくれる。
そのお陰で今日は自由形でベストタイムをたたき出した。
悔しいが、川上蒼明はやはりいい選手だった。





「へえ、蒼乃を立ち直らせた人物ねえ」
「あんまり口にも思い出したくも無い人だったんだけど」
「なんか運命っぽいな」



運命?やめて欲しい。
雪兎の家、手作りご飯(今日はカレー、美味い)を頬張りながら眉を寄せる。
兄の死と言う絶望から希望を見出して、そして裏切った人(自分の中ではそう言う位置)。
会いたくないのが当然だ。
しかもわざわざアメリカから自分ひとりのために講師に来てくれるなんて。
ありがた迷惑だ。



「出来れば今すぐにでもアメリカに帰って欲しい」
「だけどやっぱ蒼乃にとって存在はでけぇんだろ?裕利の死からどうやって立ち直ったのか不思議だったけどさ、その人のお陰って事は特別だろ」



そうなのだ、特別。特別だからこそ、会いたくなかったのに。
言っても分かってはくれないだろう。
麦茶でカレーを腹に落とすと溜息をつく。



「来春まで我慢する」



うん、それが一番だ。
自己完結を果たすと少し気持ちが軽くなる。
これから考えるべきことが多い自分にとって、川上の存在はストレスにしかならないのだ。
光の事、梅沢や雪兎の事、そして陸嵩の事。
少しずつ動きださなくては何も解決はしない。




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