学園マーメイド
車に乗せられる、会話になる、沈黙、と言う痛い展開が見えている。
「結構です。自分で帰れます」
「それは俺が困る。遠慮しないで乗ってきな。じゃ、逢坂さんに呼ばれてるし、俺は先に教官室行ってるから」
「ちょっと!」
私の否定を尽く無視され、息があがる。
ぞぞっと鳥肌が立ち、居た堪れなくって壁を蹴って泳ぎだす。
いや、落ち着くんだ。
車に乗るときにやんわり断って走って駅まで行けばいい。
そうだ、そうしよう。このままじゃあの人の思い通りにことが運ぶ。
会話なんてアドバイスの時以外したくはない。
自分でもどうしてここまで川上を否定するのか不思議だったが、やはり過去のあの思いとリンクしているのだろう。
ダウンを終え、部室で着替えを済ます間中頭の中では、川上を断る言葉を何度も繰り返し浮かばせていた。
とりあえず“自分のことは自分でやる主義なので、自分の帰る方法も自分で決めます”にしようと思ったがこれもまた変な気がする。
ぶつぶつと唱えながら部室を後にして、玄関までくると数人の女子が廊下から歩いてきた。
彼女らも帰るのだろう。
意識しないように下駄箱から靴を取り出す(ゴミ屑がいくつかある)。
「あ、ねえ……」
踵を靴に押し込み、玄関を出ようと前に一歩前進する。
「待てよ」
乱暴な声がその足を止めた。
「…………」
振り向かずに無言で返すと舌打ちが聞こえた。
廊下を歩いてきた時に見えた鞄は多分陸上部のもので、彼女達が陸上部だと言う事が分かる。