学園マーメイド
暗闇でも分かる綺麗で澄んだ色。
私が敬愛した時と同じ、熱を宿した瞳。
――――ああ、この人は川上蒼明だ。
心臓に乗っかった鉛がふっと溶け出して、ゆっくりと蒸発する。
体がふっと軽くなった気がする。
「……なんて。おじさんからの人生経験でした」
先ほどの真剣な目が優しく、照れたように垂れる。
何か言わなきゃ、……いやこの人に何か伝えたい。
口をぱくぱくと開いて何か言おうとするが何も出てこない。
あ、っと詰まった声が出たと思ったら、
「川上さん、いつかちゃんと話がしてみたいです」
なんて話の流れとは違うことを口走ってしまった。
言い終わってすぐ、口をぎゅっと閉じると川上はふっと嬉しそうな、子供みたいな笑みを零し“俺も蒼乃ちゃんと話がしたいよ”と言ってくれた。
それからすぐ、雪兎のマンションの近くで降ろしてもらった。
エンジン音が遠くに聞こえるまでその場に立ち竦む。
心臓が脈を打つのが聞こえる。
走った後でも泳いだ後でもないのに体が熱を持ったように熱い。
「……はは、ははは」
乾いた笑いが零れる。
――――『自分の気持ちを押し殺すぐらいなら、後悔をしたほうがいい』
後悔したくないから自分の気持ちを押し殺してた自分と間逆の事を言われた。
なんて豪快な発想なんだろう。
でもそんな川上の答えは、私が悩んでいた何もかもを吹き飛ばした。
馬鹿みたいに簡単な事で、愚かで浅ましい私にも出来ることだった。
マンションに戻ると、雪兎は相変わらずの感じで迎えてくれた。
この日は食事を拒否し、布団に潜り込むと深い眠りについたのだった(雪兎には凄く心配された)。