学園マーメイド

次の日の朝、携帯を取り出すと電話帳から“神崎光”を引っ張り出した。
ゆっくりと脈を打つ心臓を感じながら一文字一文字、打ち込む。
最後まで打ち込み、川上の言葉を口に出してから送信ボタンを押した。
画面には“送信しました”と他人行儀な文字が並んでいた。



『光。今までのこと、話したいことがあるんだ。放課後、水泳部の部室まで来て欲しい』



自分を押し殺すぐらいなら、後悔すればいい。
自分が彼女を傷つけたからといって、自分を押し殺し我慢し、状況が変わらないなら、体当たりしてボロボロになって後悔すればいい。


川上蒼明は、川上蒼明だった。
ドラッグをしたことは事実だった。それで軽蔑もしたし、裏切られたとも思った。
でも綺麗な瞳は変わっていない。
あの人の信念や情熱をいつまでも写し続けている。
……背中を押してくれる、やはり敬愛するに値する人だ。



時間は過ぎ、放課後になった。
決心は決まったが、やはりそれなりに緊張はする。
心臓が圧迫されて心拍数が上がってきている。
部室のベンチで座っていた私は、居たたまれなくなりプールサイドまででる。
塩素の匂いが鼻について、いくらか緊張は解れた。
制服を着たままなのでこのまま水の中に飛び込むことは出来ない。
せめても、と思い靴下を脱いでプールの淵に座り足を水につける。
ひんやりとした感覚が足を伝い全身に浸透する。
落ち着け、大丈夫だ、そう言ってくれてる気がして大きく深呼吸する。
そうだ、大丈夫。
自分の今の思いを伝えよう。
嫌われてもいい、泣かれてもいい、暴言を罵られてもいい。
……受け止めて、前進しよう。


そしてこれが終わったら、会いに行こう。



「……陸嵩に」



軽く足を動かして水しぶきを作る。
よし、と大きく息を吐いて部室に戻ろうと立ち上がる瞬間だった。
頭に重たい衝撃と激痛が走ったと思った瞬間、私の体は水の中に落ちていた。



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