学園マーメイド


何が起こったのか理解が出来なかった。
体に感じるのは水圧と、歪む視界。
光がどんどん遠ざかって行く感覚。
そして、酸素が一切入り込んでこないと言う事。
状況が理解できたときには遅かった。



「ぐっ……!ごほっ、がほっ……!」



息を吸おうとして焦った。
ここは水中だ、酸素なんてあるわけがない。
口を開けて吸い込んだものは水であって、酸素ではない。



「んぐ…っ!がぼっ……っ!」



きっと衝撃を食らったのが頭だったのが一番の原因だろう。
脳震盪を起こし、視界がグルグルと不規則に回っている。
上手く手と足が動かない、足を蹴りだせない、泳げない。
ただ体と言う物体がこの水の中深く沈んで行くだけ。
苦しい、苦しい、苦しい。
水を飲み込んでしまった、体が浮かない。
体が……、重たい。
苦しい、苦しい、苦しい。
だめだ、意識が遠のく。
もう目も開けていられなくなっていく。
心音がゆっくり落ちて行くのが聞こえる。
体から力が抜けていくのが分かる……、苦しさがなくなっていくのも分かる。
ああ、このまま水と同化して、そして水の中で生涯を終わらせるのも悪くはないか。
そう思って意識的に瞳を閉じようとした瞬間、何かが水に落ちる音と、映ってきた人の姿。
こちらに向かって一生懸命に手を伸ばしている。



「(……誰?)」



薄っすらと開いた瞳で歪んだ視界を見ようとする。
泳いでくる人の顔が水の中と光の所為で見えない。
でもこの腕に無性にしがみつきたくなって、瞳をしっかりと開けた。
その両手は次第に近くなっていって、ついに私の体に触れた。
肩を強い力で抱きかかえられ光の差し込む上へと上っていく感覚がする。
誰かの体温が体中に流れてき、安心をして瞳を閉じた。
顔が水面へあがると同時に、大げさなぐらい精一杯息を吸った。



「げっ、おぇ……!はっ、は、は、はぁ……っ!」



息を精一杯吸ったと思ったら安心して意識が飛んだ。



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