学園マーメイド


「そうだね、今まで気づかなかったみたい」
「俺ら知り合ったのが最近だしね。これから練習?」
「…午前中は物理の課題を終わらせて、午後から練習するつもりだよ」


しゃもじを拾い上げて元に戻し、炊飯器の蓋を閉める。
もわ、とした空気を顔いっぱい浴びて次は味噌汁をよそいに足を前に出すと、またしてもバンビの声が動きを止めた。


「ねえ、俺、部活今日は自主練なんだ。だからご飯食い終わったらちょっと付き合ってよ」


にこり、そう笑った顔に胸の奥の違和感がまた大きくなるのを感じた。


「…分かった」


その細くなった瞳を見つめ、頷くとバンビは手を振って友達のもとに歩いていった。
ただ呆然とその姿を目で追っていく。
普通の男子がやる他愛のないじゃれ合いや、笑い合う声。
バンビの表情一つ一つを見つめるとどれもが胸の奥に引っかかり、違和感と言う名の疑問がぶわ、と広がる。
何がこんなにももやもやとして気持ち悪い感覚を作るんだろう。
首をかしげ、お味噌汁を盛ろうとして前に一歩前進した時、バンビの二つの笑顔が見えた。


ああ…、そう言う事か。


頭の中で浮かんだその顔に胸の違和感がすぅ、と抜けていく。
やっとこの違和感の意味が理解できたようだ。
凄く単純だったような気もするし、でも複雑だったような気もする。
すっきりしたと同時に、なんだがその違和感の原因に不安を抱き、ぎりぎりまでお味噌汁を茶碗いっぱいに盛っていた。
気づいたときには時すでに遅し、零れた汁が手にかかり熱い、と大声で言った私を生徒が白い目で見つめていた。



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