学園マーメイド



玄関を出るととっくに川上の車の準備はできていて、急いで車に乗り謝罪する。



「遅れてすいません」
「いいよ。友達と会ってた?」



笑顔で迎えてくれた川上に、答えをすぐに出せなかった。
“友達”と呼んでいいのだろうか。
否、いいのだろうかではない。私が彼らをそう呼びたいのだ。



「はい……、友達です」



にっこり笑って答えると、川上は満足そうに息を吐いてハンドルを握った。
前の私では考えられないだろう。
毛嫌いしていた(前は尊敬していたが)川上の車に乗り込んで、あまつさえ笑顔を見せているなんて。
……彼が変わっていないと言う事実が分かった以上、私が彼を嫌い理由なんてない。
雑誌の文面上だけでは、その人の本質なんて分からないのだ。
その人自身を見て、判断しなければいけないのに、私はゴシック文字の羅列をまんまと信じ込んでいたのだ。情けない。
アクセルの踏む音が響いて、車が発進する。



「少し遠いんだ。あ、心配しないで夜までには帰ってこれるから」
「そですか」
「寝てていいよ。体調も悪いのに、連れ出してごめんな」
「……いえ」



寝ていい、と言う確認を取れて安心したのか、シートに背中を預けると視界が狭まった。
ゆっくりと落ちていく瞼を開ける理由もなく、私は静かに眠りについたのだった。



次に瞳を開けたのは、優しく揺らされた時だった。



「着いたよ。体調どうだ?」



虚ろな瞳で川上を見て、大丈夫だと告げる。
あたりは薄暗く、夕日が沈みかかっている。
川上がシートベルトを外し、外に出るのを見て、同じようにして外に出る。




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