学園マーメイド
途端に、ぶわり、と風が通り抜けた。
強い風だ。冬が近づいているからにしてはこの風は冷たく、強い。
私はなるべくスカートが持ち上がらないように注意しながら、川上が歩いていく方向に着いて行った。
「どこですか、ここ?」
見渡して見ると、海の見える高台にいるようだ。
地面は芝生のようなもので覆われていて、周りには秋の花(名前は知らない)が咲いている。
海の近くだからこんなに風が冷たく急なのか。
「俺の大事な場所、だな」
「大事な……」
川上はちょっとだけ此方を向き、笑う。
大きな背中が少し寂しげに見えるのは気のせいなのだろうか。
答えになっていない答えに、納得できないままその背中を追う。
少しの間、歩き続けて目の前に見えてきたのは、一つだけ佇むお墓だった。
日本のお墓とは少し形が異なり、外国で見るような丸く半円上になったお墓が一つ、立っている。
川上はその前まで歩いていくと、しゃがんで此方を見た。
そして立ち止まった私に手招きをして呼ぶ。
……ゆっくりと歩いてそちらに向かった。
お墓の前まで行き、しゃがむ。
「俺の一番大切だった人が眠ってるんだ」
「……アメリカの大会中に亡くなった人ですか?」
「うん、そう」
川上は優しく、悲しげな声を出し、慈しむ様に墓石に彫ってある文字を撫でた。
あたりが薄暗いため、その文字がなんて書いてあるかは分からない。
「アメリカの大会が終わったら、結婚する予定だったんだ」
どくり、と心臓が波打ったのはその言葉が衝撃的だったからではない。
川上が墓石を触る逆の手で、私の手を握ったからだ。
強く、でも、優しく。