学園マーメイド
大きく酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出す。
信じるべきものは――――自分。
キャップとゴーグルを外し、瞳を閉じて全てを水に任せるようにプールに落ちた。
ドボンッ、水しぶきがあがり、体中に冷たい液体がまとわりつく。
途端に襲う恐怖。体がガチガチに固まり始め、足の神経が張る。
怖い、怖い怖い(水が閉じ込める)。
怖い怖い、怖い(死が手招きする)。
―――――違う!
水面の中で瞳を広げる。
見えるのは滲んだ視界と、底知れない闇の色。
……そう、私はここで生きてきたの。
悲しいときも、嬉しいときも、つらいときも、楽しいときも、私はいつだってここに帰ってきてた。
いつだってこの場所で生きてきたの。
水と同化して、いつか魚のように泳げたらと願いながら。
ここが私の居場所、生きるための理由。
唯一、私が呼吸しようとした場所。偽りのない私になれる場所。
「……ゴバゴゴハバゴポ(怖くなんかない)」
そう、怖くなんてない。
ほら、こんなにも私を包み込んで安心されてくれるのに。
何が“怖い”の?
怖くなんてなかった。あんなに暗かった視界が急に明るみを増し、水が私を優しく包み込んで髪や頬を撫でる。
怖かったね、大丈夫だよ、そんな風に言っている気がして“このまま死んでもいい”なんて思ってしまった。