学園マーメイド


……ごめんね、私が怯えていたら受け入れてくれるはずなんてなかったのに。
確かにあの時、感じたのは“死”だった。
死以外の何者でもなかった。
引っ張って閉じ込めて、還さないようにされたなんて私が勝手に妄想しただけ。
ここはいつだって寛大で広く、包み込んでくれていたのに。
そう、ここが私の生きる場所。



「ゴポポガホホゴ(生きる理由)」



自然と体の力が抜けて笑顔になっていくのを感じた。
ふわり、と体が自由になり足の神経も震えもおさまる。
――――戻ってくる、あの感覚が、戻ってくる。
共にあるべき、切っても切れない関係にある。
水泳と私。
行こう、泳ごう。魚になって自由にこの海を泳ぐの。
一生息なんて続かなくていいなんて思った。
ずっと此処にいたいと、そう思った。
ただいま、ごめんね、ありがとう。たくさんの言葉が溢れ出して止まらない。


心臓も軽くなって、笑顔のまま蹴りだそうとした瞬間だった。
ドボンッ、大きな音がして遠い視界に塊が落ちてくるのが見えた。
ゴーグルをしていない為、それが誰なのかは分からないがジャージを着ているあたりから川上だろう。
もしかして、溺れているのだと勘違いされたのだろうか。
だとしたら勘違いだ、急いで誤解を解こうとそちらへ泳ぎだす。
溺れかかった時の泣きそうな川上の顔が脳裏に浮かぶ。
あの時の川上の顔を二度と見たくない(嫌いだからではない、悲しくなるのだ)。
だが、半分まで近づいて様子がおかしいことに気づく。



「(……こっちに向かってこない)」



川上ならば服を着ていても優雅な泳ぎで此方に近づいてきてもいいのに、視界に移る塊は一向に此方にくる気配がない。
ただバタバタと足と手を激しく動かしているように見える(視界が滲む)。


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