学園マーメイド
だが、途端にはっとする。
滲む視界の中でも見えるふわふわと揺れる茶色の髪の毛。
その塊が誰なのか認識したとき、心臓が有り得ないスピードで脈を打った。
それを感じるや否な、私は足を蹴りだし息継ぎをすることを忘れて人物に向かって泳ぐ。
早く、早く、もっと早く!
あと少しだというのに全然前に進んでいないように感じる。
ああ、早く!
やっとの思いでその人物に触れ、急いで上へと引き上げる(水深2メートルある)。
「ぷあっ!」
「げほっ、ぶはっ……、はっ、は、はっ」
「――――っ陸嵩!」
水面に上がって息を吸い込んですぐにその人物の顔を見る。
――――陸嵩。
「大丈夫?ねえ、水飲んでない?」
応答はない。重い体を引っ張り足の着く壁の方まで連れて行く。
陸嵩は終始荒い息を入って吸ってを繰り返し、呼吸を落ち着かせているようだ。
たくさんの疑問が頭の中を浮かぶ中、陸嵩の安否が不安でたまらなかった。
そして、水の中にいると言うのに彼の体温があまりにも暖かいことに少し驚いていた。
陸嵩の青い顔を眺めながら、なぜか私の涙腺がじんわりと熱くなった。
「も、……い、……っだ」
掠れて途切れ途切れしか聞こえない声が耳に届く。
陸嵩がゆっくりと大きく深呼吸すると、此方に両手を伸ばしてきて痛いぐらいの力で両肩を掴まれる。
久しぶりに見る顔だというのに、そんな気が全然しないのは何故なのだろう。
彼の澄んだ瞳が濡れている。
「……陸嵩?」
「も、いいんだよ蒼乃!」
ぴちゃん、髪から水が落ちて陽気な音を立てた。