学園マーメイド
バンビのつり上がった口端がゆっくりと元に戻っていく。
さっきまでのあの笑顔が嘘のように、その顔は冷たい。
「……気づいてんだ?」
「ううん。朝、気づいた」
「あっそ。別に気づかなくても気づいても、どっちでも良かったけど」
ソファーに沈めた体を起こすと、見下すように私を嘲笑うバンビ。
そう、気づいたんだ。この人の笑顔がおかしい事に。
初めて会った時からそうだった、どこか不自然な笑み。それは何かを我慢しているようで、心からの笑いとは言えなかった。
それに気づいたのは今朝の友達といる彼の顔だった。
1週間一緒にいたが、彼のあんな顔は見たことが無かった。
眉間に皺を寄せて目を細めて笑う顔。…あれが自然体な顔なんだとそう確信した。
引きつった笑顔と、素の笑顔じゃあ全く人間は違うと言う事だ。
じゃあ、何の目的で(作り笑いまでして)私に話しかけたのか。それが新たな疑問なのだ。
「俺さ大嫌いなんだよね、偽善者ぶる奴。全部自分が悪いみたいな顔して、結局は皆を追い出す…。傷ついてんの、みんなの方だから」
「…………」
ああ、…そう言う事か。
「堂々と自分だけは水泳部に残ってさ、女王様気取ってるつもり?全然、笑えない。…あんたさ、自分の名誉ばっかり気にして相手の思いなんて考えた事ないんじゃないの?」
言い返したい思いでいっぱいになる気持ちを抑えた。
…言い返せはしない。本当に部に残っているのは私一人で、後は…私が追い出したようなものだ。
ジャージのズボンを強く握り締めた。
抵抗する事は許されない。…だったら耐え抜くまでだ。
バンビは一歩、前に前進した。
「マーメイドかなんだか言われて舞い上がってんじゃねえよ。……部のやつらが水泳部戻りたいって思ってんの知ってんだろ?」
怒鳴りさえしないが、威厳あるその声に体の芯が硬直していた。