学園マーメイド
部室を出て、人気のない空き教室に二人。
互いに口を沈黙を守り、口を開かないまま数十分。
このままではイタチごっこになってしまう。
「…………」
小さく空気を吸って吐く。
“怖い”のだと思う。
あのときに崩れた偽者の関係。
だけど、どこかで期待している部分があったのだ。
“違う、光はそんな子じゃない。なにか理由があるはず”だと。
心では分かっていた。そう思うことで平常を保っていたかったのだ。
嫌がらせが原因で陸嵩の元を離れて、良かれと思っていた。
結局それが彼自身を苦しめてしまった。雪兎も梅沢にも、いらない心配をかけてしまったのだと思う。
たくさんの行為や感情を作り出した元凶を放って置いたら、同じことが起こってしまう。
それだけは避けたい。
そして何より、望みはないかもしれない。
でも、再び彼女と……。
「光」
背中を向けている光に声をかける。
自分でも驚くほどしっかりとした口調だった。
彼女は此方を向かない。
「大会前、あたしの頭殴ったの……、光だよね」
あの日、プールサイドに呼び出した人物はたった一人。
「あの後、脳震盪おこして溺れかけたんだ」
「…………」
「講師の人がきてくれてなかったら……、死んでたよ」
光の肩がビクリ、と揺れた。
「……ごめん、脅してるわけじゃないよ」
ああ、何を言ったら良いだろうか。
自分からベラベラと気持ちを話せるような事をしてなかった私にとって、心のうちを言葉にするのはとても難しい。
陸嵩の前ぐらいでしか、胸のうちを簡単に開かせられない。