学園マーメイド


何を……、何を言ったら?



―――『……人と向き合おうとするその心って大事だから。ありったけの自分の気持ちを相手に伝えておいで』



川上の言葉がどこからともなくすーっと聞こえてきた。
あの人は何故か私の心が欲しい言葉をくれる。
彼を敬愛していた幼い頃の私の原動力にもなっていたし、陸嵩のことで悩んでいた時も彼の言葉が導いてくれた。
……今も、ほら。口が自然に開いていく。



「言い訳に聞こえるかもしれない。でも、聞いて」
「…………」
「雪ちゃん……、ラビ先輩のことは確かに光から聞いてた。でも、名前も覚えてなくてラビ先輩と初めて会ったときも名前を聞いたときも、本当に分からなかった。……その所為で光を傷つけたって言うのは事実だから、どうも言えないけど」



握り締めた拳が震えるのを感じた。



「あたし、小学校も中学校もちゃんとした“友達”っていなかったんだ。だから、光が高校に入って話しかけてくれて“友達”だって言ってくれて嬉しかった」



どうせ同じ毎日が続いていくのだと思っていた。
水泳部の皆は気さくに話しかけてくれるように振舞っていたけど、裏では私をどう思っているのか、どういう目で見ているのか分かっていた。
だから、初めて光が話しかけて、笑いかけてくれた時、胸の奥が暖かくなったんだ。
その笑顔に裏や曇りが見られないほど屈託で、輝いて見えたから。



「光が“友達ごっこ”だって言うなら、それでもいい。実際にあたしに近づいた目的はだた友達になりたかったわけじゃないし。だけど、あたしは勝手に“ごっこ”じゃない感情も存在していたって思ってる」
「……あんたに、……なにが分かんの?」



それまで黙っていた光が小さな声を出した。
ゆっくりと此方に向き直った彼女の瞳には涙がうっすらと幕を張っていた。
その瞳をまっすぐに見つめて口を開く。




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