学園マーメイド
知っていた。皆がどれだけの気持ちでやめていったのか。
名残惜しそうにロッカーの名前プレートを剥いでいった部員の後姿がそれを物語っていた。
謝って帰ってきてくれるなら何度でもする。
だけど私の存在がある限り、彼らは帰ってきてくれる訳がない事も知っていた。
でも、…呼吸できる居場所を奪われる事が、人に嫌われるよりずっと怖かったんだ。
「黙ってないでなんとか言いなよ。なあ、お前さえいなければ皆帰ってこれんだよ」
分かってるんだ。
「あんた一人の為に、多くの人が辛い思いしてんだよ。罪悪感って言葉知ってる?」
そんなの、とっくに分かってるんだ。
だけど…、だけど。
「水泳部をあんたがやめれ――――」
「やめない。…あたしはあんたに何を言われようと、絶対やめない」
床ばかりを見ていた顔をあげ、バンビの瞳を見つめた。
真剣な瞳がどれだけこの人が“友達思い”なのか語っている。
だけど、私も“呼吸する場所”、これを守る思いなら負けはしない。
何を言われようとここを奪う者がいるなら許さない。
「へえ…、さすが水泳部の大将だな。意地でもやめないつもりか」
「皆が辛いのも知ってる。苦しんでいるのだって、知ってる。…あたしを憎んでいる事も十分知ってる。だけど、この場所だけは誰に何を言われようと譲れない」
「…どうして?」
「あの場所だけが、あたしの生きる理由だから」
彼の瞳を迷いなく見つめると、小さな溜息と共に少しの静寂が帰ってきた。
呆れているのは痛いほど分かった。
バンビは茶色がかった髪の毛を強く掻き毟ると瞳を逸らし、そしてまたゆっくりと此方を見た。