学園マーメイド
動揺のあまり、義母のように瞳を左右に揺らしてしまう。
「……あたしが?」
「え、ええ。あちらに正装用の服を出しときましたから、それを着てね。そ、それから10時に此処を出るから……、それまでに準備をお願い」
何か追求されると不味いと察知したのだろう。
義母は捲くし立てるように言うと、踵を優雅に翻し、奥の部屋へと消えていった。
心臓の音が収まらないままに私は正装用の服があるという部屋に足を踏み入れた。
そこで目に入ったのは、とてもじゃないが好んでは着ないであろう、色鮮やかな着物が用意されていた。
色は青を主としているが所々、オレンジ色も交じっていて、テレビで芸能人が着るような華々しい着物だ。
これを……、着ろと。
「冗談じゃない」
ポロッと口から本音が出る。
だけど、私には選択の余地は無い。
着なくてはいけないのだ。
そしてタイミングよく現れた家政婦に愛想笑いで“よく似合いますよ”なんて言われてしまう。
後は流れだ。家政婦が出際良く着物を着せてくれて、帯を締めてくれて、髪の毛をセットしてくれて(ショートなので頭に飾り花をつけられただけ)、軽く化粧されて……、完成だ。
「……あら、とても綺麗ですよ」
家政婦が完成した私を見て、ほうっと溜息を漏らした。
「藤乃(ふじの)様によく似ていらっしゃる」
「藤乃?」
言われた名前をリピートしただけだったのだが、家政婦はハッと我に返ったように口元を押えた。
そしてもう一度愛想笑いをする。