学園マーメイド
「いえ、なんでもございません。少々準備に手間取ってしまいましたね。申し訳ありません」
わざとらしく話を逸らすと、家政婦は私を玄関に行くように促した。
「さあさ、もうお時間です」
着物だ、動きづらい。
足袋も滅多に穿くものでもないので、気持ち悪い。
結果的に歩き方は意識しないでもゆっくりと、しなやかな感じを出させる。
やっとの事で玄関に着き、下駄を履く。
「いってらっしゃいませ」
「……いってきます。着物ありがとうございます」
花の飾りが落ちないように小さく会釈すると、家政婦は優しく笑った。
家を出ると、正装を済ませた義両親はすでに準備が出来ていたみたいだった。
義父は“親よりも先に出るのが常識だ”と小く悪態をついていたが、義母は私を見ると目を丸くして小さく息を呑んだ)。
それからの義母の行動は少し変だった。
どこかおかしいところがあったのだろうか?
粗相があったなら言って欲しいのだが、どうやらそうでもないようだ。
だが、彼女の事を気にしていても仕方ない。
車に乗り込み、祖父のいる家に向かった。
「お帰りなさいませ。奥の間にどうぞ」
階段をあがり広い玄関に着くと、着物を着た数人の女たちが私たちを出迎えてくれた。
着いた家は“尾神(おがみ)”と言う大きな表札を掲げた家だった。
大きいのはそれだけではなく、家(というより屋敷)自体超が着くほどだ。
瓦の屋根や鯉が泳ぐ庭。
どうやら私はこんな凄い家と繋がりがあったらしい。
家元がこんなに大きいのだから、園田家が大きいのも頷ける。
義両親を前に、広い廊下を進んでいく。
奥の間、と言われたその部屋の襖は大きな赤く鮮やかな鯉が描かれていた。