学園マーメイド


義父が小さく咳払いをして袴の裾を正す。
そして音を立てないように襖を開けた。



「…………」



広がった視界に驚く。
畳がどれくらいあるのだろうか、とても広い部屋に集う人。
その人たちは義両親に目をくれると、社交辞令の握手や会話を始めた。
一部の人間は私にも目をやると、先ほどの義母と同じように息を呑み、コソコソと話し始める。
正直言って、居心地は悪い。
それにこの家は……、あの家と同じだ。



「どうか、このままで聞いてください。……蒼乃様でございますね」



冷めた目でこの部屋を眺めまわしていると、後ろから低い声が聞こえた。
突然で驚き(声をあげないで良かった)、ビクリ、と肩を震わせてしまう。



「……そうです」
「当主が御呼びでございます。どうぞ、私とご同行願います」



当主?
それに当たる人間なんて一人だろう。
義母の父親だ。
疑問は止まなかったが、こんな退屈な場所で突っ立っているだけよりもよっぽどましだろう。
後ろを向いて、声の主、スーツを着た男の後を追った。
部屋を出ると、しんっとした廊下が広がっている。
スーツの男は何も言わず私の前を歩き、ずんずんと奥の間からは遠く離れた場所へと向かっている。
そしてたどり着いた場所は椿が描かれている襖の前だった。



「当主は此方に待機しております。……どうぞ」



会釈をされ、会釈を返す。
“当主”が待っているという部屋の襖に手をかけた。



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