学園マーメイド
義父のように音を立てないようにして開ける。
光が差し込んでいる廊下とは間逆にあまり光が入っていなく、薄暗い部屋の一番奥。
うごめく人の気配に、少し警戒した。
「早く、閉めなさい」
しわがれた声が響く。
眼光を光らせてその人物を目で追おうとしていたが、その人物によって釘をさされた。
私はゆっくりと襖を閉める。
途端に暗くなる部屋。
「前にきて座りなさい」
人は見えない。でもその人の口から出される言葉は聞こえる。
命令に従うべく、前に進む。
畳と足袋が擦れる音だけが響く。
「其処だ、其処に座りなさい」
言われた通り、着物が折れないように丁寧に正座をする。
するとそれが合図のように、ぱっと電気がついた。
突然の光に眩しく思い、目を細める。
そしてその細めた目の向こう。見えたのは白髪、白髭の老人だった。
金縁の座椅子に腰をかけて此方をすっと見据えている。
彼が、当主だ。
当主と言われるだけある、威厳が表情の中に見え隠れしている。
「名乗ってみせなさい」
「……園田蒼乃です」
……悲しそうな瞳が揺れた。
「今日が何の日なのか……、知っているか?」
「知りません」
「この家の事、家業の事、……自分の親の名前を知っているか?」