学園マーメイド
私はすっと息を吸って吐く。
この人が誰であろうと、どれだけ偉いのであろうと、私の世界を壊すなら、“敵”だ。
「本当の両親がどうであれ、貴方が私と両親を憎んでいたって、それは私には関係のないことです。冷たい人間と思っても構いません。……今更両親のことを知っても、貴方が祖父なのだと言われても私は何も感じない」
「……お前は」
「この家は私がいる家と同じです。広いばかりで血の通わない、冷たく、寂しい家」
周りだけ取り繕って、体裁ばかりを気にする家。
息が詰まっていつか窒息してしまうだろう。
だから私は高校を機にあの家を出ることを決意した。兄を置いて、出ることを決意したのだ。
しっかりと当主の瞳を捕らえる。
「貴方が私を呼んだことに意味があるのなら、私はその意味を無しにしたいと思います」
優しく微笑んでいる母親が一瞬浮かんだが慌てて消す。
私には、水泳以外にも守りたい場所と人が出来たの。
そう思わせてくれる人が出来たの。
もうこれ以上は望まない。だから、私から奪っていかないで。
「……やはり……、似ている」
当主は火が水を被ったように小さくなって呟いた。
長く白い眉毛が垂れ下がっている。
「お前を此処に呼んだことも、母親の話をしたことも、深い意味などない」
当主は痛々しい咳を数回すると、ゆっくりとした口調で話しはじめた。
昨年、病気が発覚して、来年の春に手術を受けること。
だけど、年が年なうえに体力も衰えているため、手術をしても生存が危ういと言う事。
時折咳をしながら、時折、寂しそうな慈しむような瞳で此方を見ながら当主は話した。