学園マーメイド


彼女が何故、私を引き取ろうとしてくれたのか分からない。
でも、今は感謝の情が生まれている。孤児院に預けられていたら、兄に出会わなかっただろうし、水泳にだって出会っていない。
そして、陸嵩や雪兎、梅沢にだって出会ってさえいなかっただろう。
でも、彼女を母親だと思ったことは一度も無い。
悪い人でもないようだけど、私にとっては兄が全てだった。
これからも彼女を母親としてみることはないのだろう。
でも謎だ。



「義母は、どうして私を?」
「それは私にも検討はつかない。……だが、引き取られて辛い思いをしていたのは事実だろう?」
「……正直、親だと思ったことはありません。私は兄が全てでした。兄さえいれば、どんな状況も耐えられると思ってましたから」
「裕利か」



私は頷く。



「裕利はとても残念だった。心優しい少年だった事は私も直接あって感じている。だからこそ、またお前は辛い思いをしただろう」



きっと義母が当主に報告していたのだろうけど、どこまで知っているのか。
全てまで知らなくても、内部状況は筒抜けだったのだろう。



「それでも、私はお前に手を差し伸べることはしなかった。……理由は先ほども伝えた通りだ。憎かったし、許すのが怖かったからだ」



だけど、と当主はしっかりとした口調で言う。


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