学園マーメイド



「お前に会えて良かったと今は思っている」



への字で結ばれていた口がふっとつり上がった。
当主が私を見つめて笑ったのだ。
その顔は愛しいものを見るように、温厚で優しいものだった。
そう、ただのおじいちゃんのような。
私は笑顔を見て、少し、ほんの少し、胸が痛くなった。



「やはり、お前は藤乃によく似ている。……あの子は芯がどっしりとしていてな。自分がこうと決めたことは貫き通そうとする。自分の中にある、大切なものを守ろうと、私にいつも楯突いていた……。澄んだ綺麗な瞳、お前とそっくりだ」
「こんなに綺麗ではないですよ」



謙遜するつもりはなかった。
微笑んで、此方を見ているこの人は本当に綺麗なんだ。
私は到底叶わない。



「いや、よく似ているよ」



優しい声が言う。



「蒼乃」



今まで“お前”だったのが、いきなり名前を呼ばれてドキリ、と心臓が動いた。
当主の顔は会ったときよりも穏やかで緩んでいる。



「はい」
「すまなかったな」



先ほど大きく動いた心臓が更に跳ね上がった。
当主が私に向かって頭を下げていたからだ。
よく分からないが、当主が頭を下げるなんて事はあってはいけないんではないだろうか。
仮にもこの一家の長に当たる人が、一端の小娘なんかに頭を下げていいのか?
(表情にはでないまま)私の頭はパニックになっていた。



< 217 / 282 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop