学園マーメイド



奥の間に戻ると、料理やらお酒やらが用意されていた。
どっちかと言えば母の命日を名目に宴会を開いているような気もするが。
私はそれを横目に、綺麗で大きなお仏壇に座った。
大きな写真には先ほどと同じように微笑んでいる母の顔。
……やはり似ていない。私はこんなに綺麗でも美人でもない。
写真に微笑むんで手を合わせる。


お母さん(と呼んでいいんだろうか……、いいんだよね)、少しだけ生まれた事を悔やんだことがあります。
私を残して亡くなった貴女と貴女が愛した人を少しだけ憎んだこともあります。
でも、完璧に辛くないとも、悲しくないとも言えないけど、それでも今の生活が好きです。
そう思える人にも、好きだと思える人にも、出会えました。
……私も、もしかしたら貴女、お母さんに会いたかったのかもしれない。
会って、こう言いたかったのかもしれない。
生んでくれてありがとう。心配要らないよ、私は幸せだから。



「……お母さん」



ぽつり、呟いて瞳を開ける。
綺麗な微笑を向けている母。
心臓がぎゅっと締められるような感じがしたけど、……苦しいものとは少し違う。
不思議な塊が胸の中をしめて、いっぱいだけど、たぶん嬉しいのだと思う。
ちょっとだけ、尾神家も園田家も好きになれそうなきがしたし、祖父に認められた事も予想外に感動したのだ。




命日の催し(宴会っぽいけど)が始まる前に、当主が顔を出して挨拶をした。
その間は皆静かで、当主の話に耳を傾けている。
偉い人なのだと実感する(そりゃそうだ)。
結構酷い言い草をしてしまったが、大丈夫だろうか。
と、今更に心配したが、話しが終わった最後に、此方をちらりと見て微笑んでくれた祖父を見てそれは消えた。
その後は自由だった。
酒を飲んで笑う大人たちや、政治の話しをし始める人たち(私と同じ年代は少ない)。
たまに私に声をかけてくれた人もいたが、すぐにどこかに行ってしまった。




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