学園マーメイド



川上は張った背筋を更に伸ばした。



「……今日は、藤乃に会いにきたのと同時にお願いがあって参りました」



川上の言葉に当主の眉がピクリ、と動く。
川上は伸ばした背筋をゆっくりと倒した。




――――『……蒼乃ちゃん、これから辛いことがあっても受け止める勇気を持ってほしい』
――――『受け止められないくらい辛いことでも……、どうか受け止めてやってほしい』




川上は俗に言う土下座をしていた。
聞こえ出す、彼の声。
木霊するリアルな声。
悲壮な川上の顔。
この言葉の意味を、私は知りたかった。
でも、震えだす拳は逆に知りたくないと言っているようだ。

――――耳を塞いで!

最後の私自身の忠告を振り払った。



「蒼乃の親権を……、僕に返して頂きたい」



息を吸うのを無意識に止める。



「……蒼乃は、俺と藤乃の子供です。今までは養う自信も貴方に直接そう言う自信もなかった。でも、今ははっきりと言えます。蒼乃は俺が愛した人の子供。俺の子供です。お願いします、俺に蒼乃を返してください」



何かが、音を立てて崩れていく。



――――『……蒼乃ちゃん、これから辛いことがあっても受け止める勇気を持ってほしい』



貴方が言っていたのは……、この事だったの?
私が、川上の子供?




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