学園マーメイド
頭は上手く回ってはくれない。元々頭の回転は速いほうでもない。
冗談でも、嘘でもないことは雰囲気と川上の声の色で分かる。
畳にこすり付けるようにして頭を下げる姿も、そう思わせる。
でも、それだけじゃあ納得がいくわけがない。
“両親は生まれてすぐ死んだ”って。それだとしたらつじつまが合わない。
ねえ、どういうこと?
「蒼乃にこの事は?」
「まだ話していません」
「そちらが先だろう」
「先にお義父さんの承諾を頂きたかった。……それに、怖いんです。蒼乃にこれを話して拒否されたら、俺はもう一度立ち直ることは出来ないだろうって……、そう思うんです」
心臓が、ゆっくりと脈を打つ。
目頭がじゅっと熱く、何かを堪えるように眉間にしわが寄る。
酷く背中や手のひらが冷たい。
冬だからではない。……体全体の血の気が一気に引いていく。
足の力が抜けそうになるのを、かろうじて保てているのは精神だけだ。
「お義父さんに許して頂きたい。藤乃を愛し、奪ってしまった事も、蒼乃を返して頂く事も。こんな俺ですが、今でも藤乃を愛しています。そして、蒼乃の事も愛しています。父親として……、蒼乃の前に立ちたい。……一緒に暮らしたい。今は本当にそれだけなんです」
喉がカラカラに萎びていくのを感じた。
――――『父親として……、蒼乃の前に立ちたい』
憧れで、大嫌いで、敬愛していて、講師で、信頼できた大人で。
それが……、父親?
精神にも限界がきていたみたいだ、全身の力がふっと抜けた瞬間、私の体は足から崩れ落ちていった。
もちろん、ゴトン、と派手な音を残して。
見つかりたくは無かった。だけど、もう無理だった。
立っているのはやっとだったのだ。