学園マーメイド
「黙っていて、悪かった。……俺の話、聞いてくれないか?」
大きな手が頭に乗せられる。
彼を敬愛していた講師だと思っていた頃、何度もしてくれた仕草だ。
暖かく大きくて、包み込んでくれるその手に何度も励まされたし、何度も背中を押されてきた。
安心できる大きな手。
だけど、今は逆に振り払ってしまいそうにもなるし、胸の奥を苦しめる原因にもなる。
信じていた人に……、二度も裏切られるの?
こみ上げる胃の底に溜まる異物。
久々にくる、あの感覚。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。
食道を押し上げてこようとするその異物に、慌てて口元を手で押さえつける。
「……っ、っ……!」
「蒼乃!」
異変に気づいた川上が慌てたような声を出したかと思うと、次の瞬間には私を軽々と持ち上げた。
「待ってろ、すぐ着くからな。大丈夫だ、あと少し」
刺激させないように優しく、でも足早に彼は私をトイレへと運んだ。
便器に手をかけながら、湧き上がってくる異物を吐き出す。
ああ、弱い。
そして情けない。
私は強くなんかなっていない(そうもともと強くなんてない)。
生理的な涙で視界がぶれている間、川上はずっと私の背中をさすってくれていた。
優しい温度だ。
それなのに一向に止まらない涙の粒。
混乱する頭で思ったのは、彼の顔。
―――陸嵩の顔だった。