学園マーメイド
「……落ち着いた?」
川上がすっとコップに入った水を差し出し、それを無言で受け取る。
人っ子一人いない、静かな部屋。
和風な屋敷には似つかない洋風な椅子や机が並べられているこの部屋に入って数分。
もらった水で喉を潤す。
「驚かせてごめんな。……いや、謝って済む問題でもないんだけど」
まだ気持ち悪い。
喉もとから吐き出された異物はまだ完全に吐ききれていないようだ。
胃でグルグルと回っているのを感じる。
「俺の話……、聞いてくれるか」
心此処にあらず、と思ったのか、川上が私と目線を合わせるように屈んだ。
私はその川上の瞳を見る。
……そんな悲しそうな顔で見ないでよ。
訳も分からなくて、どうしようもないのはこっちなのに。
そんな顔されたら、またどうしたらいいのか分からない。
川上から瞳を逸らして頷く。
どっちにしたって、彼が父親だと言うなら真相を知りたい。
「ありがとう」
川上がふっと息を吐く。
「……ご覧の通り、この家は昔から代々続く有名な財閥で。俺は、言うなれば水泳だけが取り柄な庶民。お前の母さんとは身分違いの恋だったんだ」
手に持ったコップの中に入っている水が揺れる。
私自身震えている。
「知り合って、恋に落ちて、付き合って。……まだお互い、大学に在学中だったけど」
川上はそう言って言葉を区切った。