学園マーメイド
「一向に認めてもらえない。きっとこのままじゃ子供までおろされてしまう。……考えた結果、真夜中に藤乃を連れ出した。世に言うカケオチってやつ。ま、カケオチって言っても俺の部屋とか、女友達の家とかを転々としてただけなんだけど」
それでも、と続ける。
「幸せだった。二人で飯食って、子供とか未来の話をして、それだけで幸せだった」
“あたしのことを愛していたんですか?”その言葉を飲み込んだ。
だって、聞こえる言葉の中に優しさが混じってる。
言葉でだったらどうとでも言える。でも、本当にこの人の目は優しかったから。
「出産を2ヶ月に控えた頃、俺のアメリカでの大会行きが決定した」
これは有名な話だ。
日本最年少で、アメリカの大会の切符を勝ち取る。
ファンなら知っている事だ(自分でファンというのもなんだが)。
「嬉しかったけど、不安でもあった。藤乃を残していくのに不安がないとは言い切れなかったからな。出産の予定日には間に合わないってのもあったし。……でも、藤乃は行けって……、笑顔で言ってくれて。だから俺はアメリカから帰ってきたら結婚しようって約束をして……、アメリカに向かった」
川上の声に変化があった。
安定なく声色が揺れている。
「この決断を……、俺は一生悔やんだよ。……どんなことがあっても日本に残れば良かったって、何度も何度も後悔した。悔やんでも悔やみきれない」