学園マーメイド
グラウンドに出ると、噂を聞きつけたのか既に小さな人だかりが出来ていた。
所謂、野次馬達がこの勝負見たさに部活を休憩しているのだ。
「おい、ちゃんと準備運動しとけよ。怪我して俺の所為にされたくない」
「……分かってるよ、ハゲ」
ハゲ、の部分を小さく言ったおかげでバンビには聞こえていなかったようだ。
少し悪口を口にするだけで心が少しスッキリする。
言われた通りに(言われたからやる訳ではないが)準備運動を終え、バンビを見ると余裕そうに伸びをしている。
「準備できたよ」
そう言って砂を蹴ると、バンビが近くの陸上部の人間に何かを話す。
話し終わると此方に向いて真剣な瞳で見つめてきた。
「勝負は1回。判定はあっちにいる陸上部の人間にしてもらう」
指を指す100M先に旗を持った人間が見えた。
「ルールは正式に行うから。フライングしたらやり直し、先にゴールした方が勝ち」
「分かった」
「ハンデとして、俺は立ったままのスタートにするけどあんたは後ろに人つけるからクラウチングでやって」
私はその言葉に首を振った。
「いい、ハンデなんかいらない。あたしも立ったままスタートする」
舐めんじゃねえよ、勝負事に情けなんてかけて貰いたくない。
それこそプライドに傷がつくに決まっている。
睨みを利かせて彼を見て、瞳を左右に一度揺らすと、頷いた。
「いいんだな?」
「君も選手なら、正々堂々勝負しようぐらいな事言ったら?」
ふん、と鼻で嘲笑うようにすると近くにいた男子が口笛を鳴らした。
「後悔すんなよ」
意地悪そうに(少し悔しそうに)口の端を吊り上げたバンビ。
それに舌を出してまるで子供のように対抗する私に、それ以上バンビは何も言わなかった。
場の雰囲気が固まる。
周りの人もそれを察知してなのか、騒いでいた声が徐々に薄くなっていった。
白いラインに足を合わせると、100Mと言う恐怖の道が広がっている。
心臓がバクン、バクン、と大きな音を立てた。
腹の下から上がってくるなんとも言えない(水泳の大会では味わったことのない)緊張感が体を縛った。