学園マーメイド
Breath...15
Breath...15
尾神本家から車で4時間(その前に着替えを済ませた)。
降ろしてもらった駅は通勤ラッシュなのか人で賑わっていた。
車を降りる際に川上が何か言いたそうに此方を見たが、私はその顔を見ることができなかった。
最後に、
『沙織さんには上手く言っておくから……、また何かあったら連絡して』
と微笑むと彼は去っていった。
何も答えられなかった。言葉が見つからないと言うよりは、今は何も考えられないし、勢いで答えてしまいたくもなかった。
上手く言えない。
私は駅前ですれ違う人を暫く眺めてから歩き出した。
駅を過ぎれば人通りは減り、商店街が広がり、活気だっている。
手の中にある小さなメモを頼りに道を進んでいく。
冬休み前、“何かあったら”と陸嵩がくれたものだ。
「……あった」
暫く進むと目的の一軒家が見えた。
表札もちゃんと目的の“穂波”の文字が書かれている。
それほど緊張もすることなくその家のドアの前に立ちインタホーンを押す。
あ、連絡の一本入れてから覗ったほうが良かったのかな。
なんて今更ながら思ったが、そんなところまで思考が回っていなかったようだ。
「はいはーい」
声と廊下を歩く音がするとすぐ、扉が開かれた。
「あ、今晩は」
頭を少し下げて挨拶をする。
出てきたのは陸嵩ではない男の人だった。
どことなく陸嵩の面影があるような気もする。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「園田と言います、陸嵩いますか?」
そんなに驚くことをいっただろうか、男の人の顔は一瞬にして変わり、目を丸くした。
そして扉を開けっ放しにしたまま、家の中へと入っていく。