学園マーメイド
陸嵩のベッドに二人横たわる(寮のベッドより広い)。
慣れてしまったこの空間は場所が変わっても違和感はなかった。
雑談がお開きになる直前は二人から“なんかあったら大声出してね”と念を押されたが(陸嵩は怒っていた)、確かに男女が二人で寝るというのはおかしい事なのだと実感。
まあ、かと言って今更やめることもできないが。
「寝た?」
暗闇の中、陸嵩の声が届く。
見えないとわかっていて首を振る。
「起きてるよ」
柔らかい口調で言うと、彼は布団の下で手を動かした。
そして私の片手を捜し出し、遠慮がちに握る。
暖かい熱が手に浸透する。
「……さっきの事なんだけど、ね」
握られた手に力がこもった。
「いろいろと考えてもなんて言ったらいいのか分からないんだけどね……。だけど、なんて言うか……、俺は今ここに蒼乃がいることに感謝している」
「ん?」
「えっと、蒼乃が辛い経緯を乗り越えてここにいるのは分かった。だけど、そうじゃなきゃ俺は蒼乃に会えてなかったわけでしょう?だから、その……、今ここに蒼乃がいることに安心してるんだ」
小さく震えた声を隠すように咳払いをする。
私は心臓が震えたのを感じた。
陸嵩の言葉はゆっくりとでも確実に心臓の内部に易々と入り込み、芯を取り込んで熱を発生させる。
講師が父親だったとか、母親はご令嬢だったとか、血の通わない家族の中で過ごしてきた時間だとか、全部、全部取っ払う。
そうだ、もし兄と出会わずに水泳をしかなったら、私はいまきっとここにはいなかった。
そして陸嵩にも出会っていなかった。
たとえ違う未来を歩んでいたとしても、今ここにいる自分は彼に会って幸せだと思える心がある。
それでいいじゃないか。
今の私にはその感情があればいい。