学園マーメイド



「……蒼乃」



やさしく名前を呼ばれ、ふっと、顔にかかる月明かりが消える。
視界に移るのは陸嵩の顔。
迫ってくる重みに瞳を閉じると、唇に熱が灯る。
驚きもせず、もちろん拒否なんてする気はなかった。
唇にある彼の温もりが酷く安心を与えさせてくれる。
その安心がちゅ、と小さな音を立てて離れていく。



「……俺はもっと前から好きだったよ」



ふんわりと笑みを浮かべて私の髪の毛をすく。



「うん」
「……も一回、してもいい?」



いいよ、と答える前に再び唇に熱が落ちた。
ああ、愛おしい。
そっと閉じた瞳に映った彼は小さな微笑みを浮かべていた。





次の日、昼ごろ陸嵩の家を出た。
陸嵩の兄弟にはもう少しいて、とせがまれてしまったが、それを振り切って駅へと歩く。
隣には陸嵩がいて、しかも家を出たときから手を握ってくれている(いいと断ったのだが、押し切られてしまった)。



「また、遊びに来てよ」
「うん。お兄さんたちにも会いたいし」
「うーん、それは俺としてはイマイチ」



困ったような笑みを浮かべた陸嵩を見て笑う。
握った手は冬の空気に当てられて冷たくなっていく中で心だけはほんほかと暖かい。
おかしいね、なんでもできそうな気がするよ。
しばらく他愛のない話をしていると駅に到着したようだ、電車の通る音が耳に響く。
一日という短い時間だったけど、それでもやはり得たものは大きい。



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