学園マーメイド
「ありがとね、なんか頑張れそうな気がしてきた」
からっとした空を眺めて言うと、陸嵩は握った手をほどいて私の背中に隠れた。
なんだろう、と後ろを振り向こうとするとそれを陸嵩が制止する。
「俺がいつも後ろにいるから、安心して突っ込んでってよ。昨日みたいにいつでも頼って欲しい。俺をもっともっと困らせてほしい。……だから、いってらっしゃい!」
制止が緩んで後ろを見ると、この空に負けないくらいの清々しい笑顔が私を送り出してくれた。
やっぱりなんでもできそうだ。
この人といればどんな苦難も乗り越えられるような、そんな不思議な力を与えてくれる。
私は陸嵩の思いを背中に背負い込んで、電車にと乗った。
陸嵩の家に来た時と同じ、4時間かけて園田家に到着する。
自分の家(なのだろうか)を眺め、大きく息を吸う。
どんなに大きな家だって、どんなにお金があったって、私が求めるものはこの家にはなにもない。
血の通わないこの家には何一つ、私の求めるものはない。
兄ですら、この家にはいない。
……求めていたのは、愛情。
親から与えられる無償の愛情。
だけど、いまさらそれをもらったところで私は一体どうすればいいの?
初めて他人から愛される気持ちを知って、他人を愛する気持ちを知った。
でも、それと肉親とは別だ。
しかもそれが、川上で、講師で、希望を与えてくれた人で。
ああ、陸嵩がいないとまた汚い渦に飲まれてしまいそうだ。
「……“家族”ってなに?」
ぽつり、と呟いても答える声はなく。
代わりにポケットに入れておいた携帯が震えた。
メールだと思ってしばらく放置したのだが、長く続いたので電話だろう。
取り出してディスプレイを確認すると、穂波陸嵩の文字が。
慌てて通話ボタンを押す。